歴史と人と物語の旅へ

(チェ)碩義 (ソギ)
韓国歴史紀行


2006年12月刊
四六判 上製 283頁
定価 2500円+税
ISBN978-4-87714-362-6 C0026


●目次
●書評
●関連書




ゆさぶる遥かな山河、立ち現れる過去の傷痕 ―― 。
一人の「在日」知識人であり作家・歴史家である著者が、百済・新羅・李朝・近代におよぶ祖国の歴史的故地・旧跡や名勝を訪ね歩き、いにしえの朝鮮の人物や逸話をしのびつつ、民族の苦難の歴史に思いを重ね綴った名紀行エッセイ。



〈著者略歴〉

崔 碩義 (チェ・ソギ)

1927年、韓国慶尚南道泗川生まれ。立命館大学文学部哲学科卒業。その後、在日朝鮮人運動(主に朝鮮新報社)に長年たずさわる。
1980年から韓国近世文学を専攻し、執筆活動に入る。現在、在日朝鮮人運動史研究会会員。
主な著書に、『放浪の詩人金笠』(集英社新書)、『金笠詩選』(平凡社東洋文庫)、『在日の原風景――歴史・文化・人』(明石書店)、『黄色い蟹・崔碩義作品集』(新幹社)などがある。
(本書刊行時点)




 ◆『韓国歴史紀行』目次


一 江華島探訪
高麗王宮址にて思う/哲宗のことなど/草芝鎮の砲台跡に立つ/喬桐島にて北の地を望む

二 ソウルの二つの墓地を歩く
忘憂里公園墓地/金玉均が梟首された楊花津/外国人墓地に眠る人たち

三 狎鷗亭と伴鷗亭
オレンジ族の街/狎鷗亭と韓明澮/安昌浩記念館と奉恩寺/伴鷗亭と黄喜

四 京畿道高陽市近郊を散策
忽然と出現した新都市高陽/松江鄭澈の詩碑/崔瑩将軍の墓/碧蹄館の古戦場/高麗恭譲王陵

五 水原華城に遊ぶ
健陵と隆陵を見学/八達門から蒼龍門まで歩く/華城の歴史について/禹長春博士の墓を訪ねる

六 忠清道内浦の地を行く
革命家朴憲永の故地/修徳寺尼僧、金一葉のこと/南延君墓を見る/秋史金正喜故宅

七 江原道寧越紀行――金笠の墓を訪ねる
清涼里駅にて/寧越とはどういうところか/旅人宿に泊まる/端宗哀話/金サッカの墓を訪ねる

八 五台山から百潭寺まで
五台山の月精寺/上院寺と方漢岩禅師のこと/洛山寺の義湘台/百潭寺の二つの顔

九 百済の古都、扶余
扶余を訪ねる/扶蘇山城/百済文化の日本への流出/無量寺と金時習

十 李朝女流詩人の墓を訪ねて
妓生詩人李梅窓の墓を探訪/妓生詩人金芙蓉の詩とその人生/許蘭雪軒の墓を訪ねる

十一 東学農民革命の遺跡地を訪ねる
東学農民革命の遺跡地/静寂な禅雲寺/高敞邑城を歩く/内蔵寺と白羊寺で紅葉を満喫

十二 済州島紀行
秋史金正喜の謫居址/ハメル漂流記念碑/馬羅島へ向かう海上にて/民話ソルムンデ婆さんの約束/五賢壇を見る/女流慈善家金万徳

十三 全羅南道康津を旅する
詩人金永郎の生家/高麗青磁陶窯址/茶山草堂にて/「地の果て」に立つ

十四 小鹿島紀行――ハンセン病者の島
鹿洞の地/風光明媚な小鹿島/小鹿島での見聞/萬霊堂にて/韓何雲の詩碑

十五 泗川と晋州を訪ねて
わが故里は泗川/母の葬式の思い出/受難の都市、晋州/居昌良民虐殺事件の後日譚

十六 密陽から海印寺へ
密陽の嶺南楼/孤雲崔至遠の終焉の地/幽玄の海印寺

十七 安東旅情
陶山書院を訪ねる/李陸史の詩碑/鳳停寺のこと/鰍魚湯を食べる

十八 釜山随想――波高き玄界灘
波高き玄界灘/私の個人的体験/宋象賢の「戦死易假道難」/歴史的にみた釜山

十九 新羅の古都、慶州巡礼
文武大王の海中墓/世界文化遺産の石窟庵/屋根のない博物館/新羅の花郎/善徳女王の陵を行く/南山の石仏
  *
参考文献
あとがき
初出一覧
索引





書 評





●『東洋経済日報』2007年2月23日より
評者=金一男

 「韓国歴史紀行」の表紙の帯に「韓流からもう一歩先へ/歴史のとびらを開く」とあるが、在日にとっても日本の読者にとっても、韓国歴史紀行として待望の一書といえる。98年からの段階的な日本文化の解禁により、近くて遠かった韓日の相互理解はまさに始まったばかりであって、中身はまだ底が浅い。単なるイメージとしてではなく、その時々の隣人の歩みを具体的に知ってこそ、その理解は本物になる。

 該博な知識に裏打ちされたこの歴史紀行は、まさに韓流をもう一歩先へ進めてくれるだろう。なによりこの紀行には、固定観念や望郷幻想による着色がなく、等身大の在日の目から見た等身大の韓国の歴史と風土がある。

 江華島からはじまり慶州にいたる19の章は、ひとつひとつの地域に対する明確な歴史的テーマ性があるため、構成にゆるみがなく、内容が堅いわりに読みやすい。また、観光ガイドブックではないが、筆者みずから撮影の写真とあいまって、臨場感のあるコースガイドにもなっている。

 たとえば第10章の書き出しは、「旅は早立ちに限る。全州の市外バスターミナルの近くにある食堂で朝食を済ませたあと、梅窓の墓のある扶安行きのバスに乗る。バスは全羅北道の広い湖南平野を横切って走る」とあり、地図さえあれば読者が三人の女流詩人の故地をたどることができる。

 テーマ性ということでいえば、たとえば第2章の「ソウルの二つの墓地を歩く」を読めば、墓地という共通項から朝鮮と外部世界との結びつきが理解できる。浅川巧や曽田嘉伊智、そしてベッセル、アンダーウッド、ハルバートらの生を通して、近代朝鮮が決して完全には孤独ではなかったこと、深く愛してくれていた素晴らしい友人たちを持っていたことを知る。また、金玉均や張独秀、曺奉岩らの死を通して、現代につながる時代の激動と悲惨とを改めて知らされる。

 忠清北道をのぞいて韓国全域の故地がほぼ網羅されているから、新たなチャレンジ精神を刺激されるだろう。最近は、地方へのアクセスもよくなっているので、この本と地図を片手に歴史探訪の旅に出てみたら楽しいと思う。また、取り上げられている人物もかなりの数にのぼり、解説も丁寧なので、巻末の索引を利用すれば手軽な人名辞典としても利用できる。韓国史の通史的理解を深めるうえで役に立つのはもちろんである。

 文中、自分にはユーモアが足りないと書いているが、これは著者の謙遜であろう。独特のユーモアとペーソスが随所で読者を楽しませてくれる。





●『出版ニュース』2007.3 上

 この本は幼いときに離郷して日本で在日朝鮮人運動にたずさわり、現在は韓国近世文学、在日朝鮮人運動史等の研究活動を行っている著者の祖国訪問の旅をまとめた紀行エッセイである。

 訪ねた先は祖父の故郷であり、著者が幼時をすごした晋州・泗州や、百済の古都・扶余、新羅の古都・慶州、外国勢力との攻防の地・江華島から玄界灘に面する釜山などで、著者はこれらの場所の歴史や今の姿、出会った人々のことを記しつつ、その地で展開された歴史的なドラマの一部を語っている。例えば「江華島探訪」では、漢江を使って海路で首都ソウルに入る際の要衝が江華島であることを示し、だからこそ、清国もアメリカも日本も朝鮮に攻め入るときにはここを占領したと語り、島に残る砲台や陣地の跡を紹介している。これらは韓流ブームの影に隠れたものばかりで、本書はこのブームから決して見えてこない韓国の歴史の重さや広がりを感じさせてくれる。





●『民団新聞』2007.4.11

 韓国歴史紀行 父祖の地を万感の思いで歩く

 本書は90年代から最近まで韓国各地を歩いた旅行体験を、19編にまとめたものである。著者の思いを縦糸に、その土地土地で展開された歴史的出来事を横糸に綴っている。さらに、韓半島の独自の文化や、著者が惚れ込んだ放浪詩人、金笠などそれぞれの時代に活躍した人物の生き様にも照明を与えた。

 巻頭を飾るのは、1867年の江華島条約で知られる江華島の探訪だ。軍事力を背景に強いられたその不平等条約に先立つこと630余年前、蒙古軍の7次にわたる侵攻に苦しめられた高麗は、江華島に首都を移し、国土を守るために神仏の力を動員し、莫大な費用と労力を費やして高麗八万大蔵経を作った。現在は慶尚南道の海印寺に保管され、世界文化遺産に登録されている。

 ソウルでは韓国の山と民芸をこよなく愛した日本人、浅川巧や3・1独立運動の代表の1人、韓龍雲らが眠る忘憂里公園墓地や外国人墓地を歩き、各分野で近代化に尽くした功労者に哀悼を捧げる一方、新ソウルの顔とも言うべき狎鷗亭を訪ね、地名の由来となった跡地を確かめる散策に出かける。

 書籍の帯には、「歴史のとびらを開く旅」とある。在日1世の著者が歩き、臨津江など万感の思いを込めた数々の風景に、一度直接触れてみたいと旅情を騒がせる。












◆関連書◆


  『空の神様けむいので――ラスト・プリンセス 徳恵翁主の真実』 多胡吉郎 著

『井戸茶碗の真実――いま明かされる日韓陶芸史最大のミステリー』 趙誠主 著/多胡吉郎 訳

『生命の詩人・尹東柱――『空と風と星と詩』誕生の秘蹟』 多胡吉郎 著

  『古代朝鮮と万葉の世紀』 朴春日(パク・チュニル) 著

『小説 日清戦争――甲午の年の蜂起』 金重明 著

  『民族文化財を探し求めて』 慧門(ヘ・ムン) 著

『1945,鉄原』 イ ヒョン 著/梁玉順 訳/解説:仲村修 【中学生以上~大人まで】

『あの夏のソウル』 イ ヒョン 著/下橋美和 訳/解説:徐台教 【中学生以上~大人まで】

『ミョンヘ』 キム ソヨン 著/梁玉順・吉仲貴美子 訳/解説:仲村修 【中学生以上~大人まで】

 『空の神様けむいので――ラスト・プリンセス 徳恵翁主の真実』 多胡吉郎 著

『井戸茶碗の真実――いま明かされる日韓陶芸史最大のミステリー』 趙誠主 著/多胡吉郎 訳

 『尹東柱全詩集 空と風と星と詩』 尹 東柱(ユン・ドンヂュ) 著/尹 一柱 編/伊吹郷 訳 【品切】


  『歌集 一族の墓』 金 夏日(キム・ハイル)
  

  『鳳仙花のうた』 李 正子(イ・チョンジャ) 著

  『歌集 沙果、林檎そして』 李 正子(イ・チョンジャ)

 『父とショパン』 崔 善愛(チェ・ソンエ) 著

『「韓国からの通信」の時代―韓国・危機の15年を日韓のジャーナリズムはいかにたたかったか』 池 明観 著

 『あの壁まで』 黄 英治(ファン・ヨンチ) 著

 『記憶の火葬――在日を生きる―いまは、かつての〈戦前〉の地で』 黄 英治(ファン・ヨンチ) 著

 『秤にかけてはならない―日朝問題を考える座標軸』 徐 京植(ソ・キョンシク) 著