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朝鮮戦争、分断…そして子どもたちの選択とは――

イ ヒョン 著/下橋美和 訳/徐 台教 解説
シリーズ:YA! STAND UP
あの夏のソウル


2019年3月刊
四六判並製 310頁
定価 2200円+税
ISBN978-4-87714-482-1 C8097

装画:金 明和
装丁:桂川 潤

【対象:中学生から大人まで】
 ※中1以上の学習漢字にルビをふっています。

●目次
●書評・関連記事
●関連書







「ある人は、それをイデオロギーだといい、ある人は祖国だといった。
鳳児(ポンア)にはどちらも、それは夢と同じ意味だった」
(本文より)

植民地支配からの解放、そして朝鮮戦争・分断へといたった時代。
子どもたちは、きびしく非情な現実を懸命に生きた!
韓国YA小説の傑作『1945,鉄原』の続編、ついに刊行。


1950年6月、朝鮮半島を分断する戦争が始まった。
戦線が南へ、北へと移動するたびに、人々は入れ替わる支配者に翻弄され、生きるための選択を迫られる。やがてソウルでも空襲が激しくなり、人間らしく平穏に暮らしたいという人々の願いはふみつぶされていく――
そんなきびしい世界で、親日派だった判事の息子や、転向した革命家の娘など、背景の異なる主人公たちはぶつかり合いながらも自分の足で歩き始める。彼ら・彼女らはどんな道を選び、どう生きようとしたのか。本当はどんなふうに生きたかったのか――。

戦時下に中学生だった子どもたちにも、日常があり〝夢〟があった。戦争・分断という不条理な現実に翻弄されながらも、それでも自分らしく生きることを模索した主人公たち。
過ぎ去った歴史の断片からそんな子どもたちの生の声をよみがえらせた、韓国の実力派作家による胸を打つ傑作YA小説です。『1945,鉄原』の続編。

※本書は『1945,鉄原』の約3年後から始まる物語で、登場人物も一部重なりますが、本書から先に読んでもお楽しみいただけます。
【対象:中学生~大人まで】




〈著者〉
イ ヒョン (以玄)

1970年、韓国・釜山市生まれ。ソウル在住。
2004年第10回全泰壱(チョンテイル)文学賞小説部門受賞を機に作家活動を始める。2006年童話「ジャージャー麺がのびちゃうよ!」で第13回チャンビ(創批)「すぐれた子どもの本」原稿公募大賞、2012年童話『ロボットの星』(SF)で第2回昌原児童文学賞を受賞。
童話に『チャンス バンザイ!』、『ロボットの星』、『今日の天気は』、『わたしはシルクロードをゆく』、『のら犬アクタンの重み』、『草原のライオンワニニ』、『壬辰年の春』、『プレイボール』、『氷河期でもかまわない』、『七本の矢』。
YA小説に『わたしたちのスキャンダル』、『ヨンドゥの偶然の現実』、『オォ、わたしの男たち!』、『1945,鉄原』、『あの夏のソウル』(『1945,鉄原』の続編)など。
そのほか、子どもの人権に関して『子どもは子ども』、韓国の鬼神やトッケビの話を集めた『鬼神百科事典』、『トッケビ百科事典』などがある。

〈訳者〉
下橋 美和 (シモハシ ミワ)
1971年、京都生まれ。オリニほんやく会(韓国児童文学の翻訳会)会員。
大阪外国語大学(現・大阪大学)言語社会研究科国際言語社会専攻、日本コース博士前期課程修了。修士(言語文化学)。現在、京都大学、同志社大学非常勤講師(日本語)。
共編・訳著に、『鬼神のすむ家』、『愛の韓国童話集』、『日本が出てくる韓国童話集』(以上、素人社)ほか。

〈解説〉
徐 台教 (ソ テギョ)
1978年、群馬県生まれの元在日コリアン3世。ジャーナリスト。韓国・高麗大学東洋史学科卒。1999年からソウルに住みつつ、人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年、韓国に「永住帰国」すると同時に独立。2017年5月からは韓国政治、南北関係を扱う日本語オンラインニュース「The Korean Politics(コリアン・ポリティクス)」を創刊、現在は編集長。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。





◆『あの夏のソウル』 目次◆

1950年6月
あの夏のソウル
季節が変わるとき

1953年7月27日
   *
作者あとがき
日本の読者のみなさんへ
作品解説(()()(ギョ)











書 評




⦿韓国での書評より⦿


◆《ハンギョレ21》2017.7.1(967号)

…… 物語で韓国戦争(朝鮮戦争)を問う本がある。
作家イヒョン氏の『あの夏のソウル』(チャンビ刊)は韓国戦争を10代の目線で描いた初の青少年小説だ。戦争勃発の直後、人民軍に占領されたソウルを舞台に運命を開拓するために苦闘する青年たちの物語がつづられている。親日の経歴のある判事の息子・黄殷国(ファン ウングク)。いっとき革命家だったが結局祖国を裏切ってなくなっていった変節者の娘・高鳳児(コ ポンア)。二人の主たる主人公を中心に多様な人びとを通して、過酷な戦争のただなかでもそれなりの日常をいとなんでいたソウルの風景と、そのなかで繰り広げられた先鋭な理念の対立を生々しく描いている。



◆《ハンギョレ新聞》2013.7.1

 韓国戦争(朝鮮戦争)の勃発直後の1950年6月、人民軍に占領されたソウルで激動の時期をおくった青少年たちの話である。親日の経歴のある判事の息子・黄殷国(ファン ウングク)、変節者の娘・高鳳児(コ ポンア)が、絶望的な状況のなかで夢を求めて生きる切なる物語を小説にえがいた。



◆《東亜日報》2013.6.22

 『あの夏のソウル』(イヒョン作、チャンビ)は6・25戦争(朝鮮戦争)勃発直後の人民軍に占領されたソウルが舞台。親日判事の息子といっとき革命家だったが祖国を裏切った変節者の娘を主人公に、当時の日常と理念の対立を生々しく描く。チャンビ青少年文学シリーズ。



◆《連合ニュース》2013.6.21

 『1945、鉄原』で解放直後の激動期を鮮やかにえがいた作家が、今回は韓国戦争(朝鮮戦争)を青少年の視点でえがいた。…(略)…韓国戦争が勃発した直後に人民軍に占領されたソウルを舞台に、絶望的な状況でも自分の道を探していった青少年たちの話に胸が熱くなる。……



◆《関連インタビュ-》
(仁川桂樹中学校の生徒とともにした「文学インタビューショー」の内容の一部抜粋)

 作家が夢見る世の中を説明してくださいという質問に、作家は「夢見る世の中がないといえば、叱られそうですね」と笑ったあと、自身の書いた『あの夏のソウル』を引用した。「わたしは『うばわなくても豊かでいられて、はい上がらなくても尊厳を持って生きられる世の中』という言葉を書きました。だれもがお互いに尊重し合える世の中になればいいですね」と語った。イヒョン作家が子どもたちの本にどうして社会問題をふくませるのか、そして、それをそれほど負担に感じていない謎が、わかるような答えだった。




⦿原書の出版社・チャンビ(創批)社のサイトより⦿
http://www.changbi.com/books/8954?board_id=8511
(仮訳:下橋美和)


◆本の紹介 「イデオロギー、祖国、どちらも夢と同じ意味だった」

「いままでおまえが知っていた世界は終わったんだ」
1950年6月人民軍の統治下におかれたソウル、いちばん熱かったあの日へ!

 創批青少年文学シリーズ51巻として、本格歴史小説『あの夏のソウル』が出版された。昨年発表された『1945、鉄原』で解放直後の激動期を生き生きと描きだした作家イ ヒョンが、今度は同じ民族同士が争った悲劇の現場、朝鮮戦争へとそのまなざしを向けた。『あの夏のソウル』は朝鮮戦争の勃発直後、人民軍に占領されたソウルを舞台に、運命を切りひらこうとする若者たちの物語である。親日派だった判事の息子・黄殷国(ファン・ウングク)。一時は革命家だったが、さいごには祖国を裏切ってこの世を去った変節者の娘・高鳳児(コ・ポンア)。二人の主人公を軸に多彩な人物が登場し、事件が展開していき、過酷な戦争の渦中にもそれなりの日常を営むソウルの風景と、そのなかで起こる激しい理念の対立が生き生きと描きだされる。運命の荒波に身をまかせる人。かたく守ってきた信念が揺らいで思い悩む人。絶望的な状況でも自分のほんとうに望む夢をつかもうとする人。そんな人びとの話は、60年の時を越え、ときに熱く、ときにせつなく心に響く。


戦争のさなかの若者を描いた本格歴史小説
 『あの夏のソウル』は、朝鮮戦争のさなかの光景を若者の視線で表現した最初のYA小説である。作家イ ヒョンは、同じ民族同士が争った悲劇の現場について、淡々と語る。かけがえのない友だちだった殷国(ウングク)、吉在(キルチェ)、学成(ハクソン)、相満(サンマン)は、当時の韓国の人びとが直面した葛藤を凝縮して見せている。左翼の活動に邁進するうちに手配犯になってしまった学成。極右団体に入って学成に暴力を振るった相満。指折りの秀才だったが、過酷な運命にもてあそばれた吉在。そして、父親への愛情と自分の信念のあいだで葛藤する殷国。その立場にはどれにも彼らなりの理由があり、譲れないからこそどうにもならない。そんなことが相満のセリフによく表れている。

 「いままで人よりさじ一杯でも多く食ったことなんてありません。なのに、ようやく人よりいい暮らしができそうな縄をつかんだのに、いまになってチャラにして公平にだって? そんなふうにはできません!」――本文(日本語版 P.149)より

 また、べつの主人公、鳳児(ポンア)についても戦争の悲劇が赤裸々に描かれる。革命家の両親のおかげで平壌の名門校に通っていたのに、ソウルの刑務所に収監されていた母親が変節したせいで、一瞬にして頼るべきものがなくなってしまった鳳児。ふたたび自分の居場所を求めて、鳳児は人民軍の統治下のソウルで、義勇兵志願を募るアジテーター(扇動する人)となる。けれども、戦争は鳳児の大切な人たちを奪いさっていく。幾度も傷つき、鳳児はようやく母親のことが理解できるようになる。そして、自分がほんとうにほしかったものは大切な人とともにあるぬくもりだったと悟る。

 ただちょっとのぬくもりだけがほしかった。それで十分で、それ以上はたえられなかった。生きていることをたしかめられるぬくもりがあれば、それで十分だった。――本文(日本語版 P.273)より

 この鳳児の独白は、戦争のせいでなにかを失う経験をしたすべての人たちの心を代弁するものにちがいない。


戦争のなかに咲く希望のメッセージ
 銃弾の降りそそぐ戦争のさなかでも、子どもたちは育っていく。作家イ ヒョンは、主人公殷国をとおして成長のメッセージを伝えている。親日派だった地主の家庭出身で、アカを捕まえるのに血眼になっている判事の父親を持つ殷国は、ただ周りに押しやられるままに流されるだけだった。けれども、戦争を経て殷国はしだいに自分が望むものに気づいていく。そしてはじめて自分の道をみずから選択し、人民軍に志願する。

 ――なにが正しくて、なにが正しくないんだろう。
 殷国はなにも確信できなかった。ただひとつ信じられるのは、どんな瞬間にも、自分に恥じない選択をしようという、いまのこの心だ。――本文(日本語版 P.289)より

 殷国の誓いは、作家から読者へのメッセージでもある。いまの若者もなにごとも両親をはじめとする大人たちの考えに振りまわされて、自分の考えどおりに選択できないことが多い。作家はそんな若者に選択の機会にぶつかったとき、「恥じない選択を」しようと言っているのだ。『あの夏のソウル』は60年まえを描いているが、作品には今日の読者へのメッセージがこめられている。


▶あらすじ
 ソウルが人民軍に占領された日、親日派の地主の家庭に生まれた黄殷国は、家族とはぐれて避難することができずに、ひとりソウルに残されてしまった。一方、平壌の名門校である万景台革命学院に在学している高鳳児は、ソウルの刑務所に収監されていた革命家の母親が変節してこの世を去ったという知らせを受けて、逃げるようにソウルに向かう。人民軍の統治下のソウルで、鳳児と殷国は、義勇軍への志願を勧める連合楽団部に参加して、少しずつ新しい暮らしになじんでいく。アメリカ軍の爆撃が続くなかにも、ソウルは少しずつ日常の姿を取りもどしていく。

 けれども、共産主義者弾圧の先頭に立ってきた殷国の父親・黄基澤(ファン・キテク)と、殷国の友人で極右団体に属していた相満がソウルに隠れていたことを、殷国が知ることになる。それによって殷国の運命が揺るがされる。隠れていた相満が告発され射殺されるという事件が起こる。さらには、黄基澤はアカを捕まえてやると、殷国にとにかく自分についてこいと強要する。自分の信念と父親に対する愛情のはざまで惑う殷国は、生まれてはじめて、みずから自分の道を選択して、人民軍に志願する。

 仁川上陸作戦が敢行された日、殷国はふたたび父親と対峙する、父親が鳳児の命をたてに脅迫すると、殷国はやむなく父親にひざをついてしまう。そして、韓国軍がソウルを奪還し、鳳児と殷国は、散り散りになってしまう。人民軍の世だったあの夏のソウル。熱かったあの日を思い、殷国と鳳児は、自分たちがほんとうに望むものに気づいていく。


 いまや墓石のように孤独にとり残されたままの古い建物のまえで、わたしは解放の日へと遡る時間の扉を開けた。歴史書のなかで剝製にされた事件ではなく、解放の日を、胸を高鳴らせてむかえた当時の人びとを探しに出かけた。その人びとの瞳をのぞきこみ、生き生きとした息づかいを感じ、心の底からしぼり出される声を聴こうと努めた。人びとの声に耳をかたむけて書きとめるようなつもりで、長い長い物語を書きはじめた。――「作者あとがき」より











◆関連書◆


『1945,鉄原』 イ ヒョン 著/梁玉順 訳

『エデとウンク―1930年 ベルリンの物語』 アレクス・ウェディング 著/金子マーティン 訳・解題 【小学中学年以上~大人まで】

『「韓国からの通信」の時代―韓国・危機の15年を日韓のジャーナリズムはいかにたたかったか』 池 明観 著

『ぼくたち、ここにいるよ―高江の森の小さないのち』 アキノ隊員 写真・文
【小学中学年以上~大人まで】

『フェデリコ・ガルシア・ロルカ 子どもの心をもった詩人』 イアン・ギブソン 文/ハビエル・サバラ 絵/平井うらら 訳 【小学高学年から大人まで】 

『生命の詩人・尹東柱――『空と風と星と詩』誕生の秘蹟』 多胡吉郎 著

『あの壁まで』 黄 英治(ファン・ヨンチ) 著