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★自国の植民地時代の歴史をいかに学ぶべきか
ロバート・コンセダイン & ジョアナ・コンセダイン 著
中村聡子 訳/上村英明 解説
私たちの歴史を癒すということ
ワイタンギ条約の課題
2022年11月中旬刊
四六判 並製 443頁
定価 3200円+税
ISBN978-4-87714-493-7 C0031
*原書:"Healing Our History:The Challenge of the Treaty of Waitangi",
Penguin Random House New Zealand, 第3版, 2012年〔初版:2001年〕
●目次
●書評・関連記事
●関連書
〈歴代政府、従来の教育制度、主流メディアが、国民に十分な情報を提供してこなかったことにより、癒しのプロセスが遅れ、ニュージーランド人は二極化してしまった。私は、すべてのニュージーランド人に、自国の植民地時代の歴史について学び、その今日的な影響を理解するよう勧めたい。ニュージーランドの将来について有意義な議論を行なうためには、この問題について十分な情報を得ることが極めて重要である。〉(「イントロダクション」より)
〈本書は、先住民族の権利の土台ともなる、誤謬に満ち、歪曲され、捏造された「近代史」という歴史の「癒し」を行なってきた著者の格闘の記録である。本書の原題が、“Healing Our History”であるため「癒し」という穏やかな日本語が用いられているが、著者が取り組んできたことは、百年を悠に超える「近代」という傷ついた時間の流れを修復する壮大な作業といえる〉――本書解説「歴史を正すことに格闘する――その重要性と難しさ」(上村英明・恵泉女学園大学名誉教授)より
ニュージーランドへのアイルランドからの入植者というルーツをもつ著者は、若いころにアメリカの公民権運動や開発途上国への国際救援活動などに関わるなかで、先住民族マオリが植民地時代に受けた痛みの影響が、失業や差別などさまざまな形で現代にまで続いていることを知る。また、そのころ盛んになっていた植民地時代に収奪された土地へのマオリによる補償要求運動を目の当たりにしながら、多数派の人びとにはマオリと連帯してそれらの不正を正す責任があることに気づいていく。
前半の第1部では、ニュージーランドの植民地時代の起点である、1840年に英国がマオリに結ばせた「ワイタンギ条約」以後、どのように植民地化は進んでいったのか、誰がどのようにして先住民族の土地収奪を可能にしたのか等、ニュージーランドの植民地化の歴史を先住民族マオリの視点から捉え直し整理する。
後半の第2部では、マオリの権利と尊厳の回復とともに、不正を正し社会に正義を回復させるために自国の植民地時代の歴史をどう学ぶべきか、マオリとパケハ(白人植民者)とに二極化された社会をいかに「和解」に導くのか、著者が開発・提唱する「ワイタンギ条約ワークショップ」(パラレル・ワークショップ)の実践を中心に論じる。
21世紀の私たちが植民地主義をいかに克服していくのかという困難な課題に対する一つのユニークなアプローチを提起する書。
ニュージーランドのベストセラー、初邦訳!
〈著者〉
●ロバート・コンセダイン (Robert Consedine) 著
クライストチャーチ郊外の労働者階級が暮らす町アディントンのアイルランド系カトリックの「コミュニティ」で育つ。アメリカの公民権運動や開発途上国への国際救援活動に関わるなかで、世界で最も疎外された環境における人間の尊厳のための闘いを目の当たりにしてきた。1981年のスプリングボックスツアー反対運動に参加したことで2週間投獄された際、獄中で先住民族マオリの囚人たちから聞いた、あらゆる種類の収奪を反映した物語――家族との別離、土地、言語、文化、失業、虐待、暴力、自尊心の低下、個人的・組織的な人種差別など――に衝撃を受けた。その後、トリッシュ・コンセダインと共に、マオリとパケハのネットワークの支援を受けてワイタンギ・アソシエイツを設立、ニュージーランドの人々が植民地の歴史について学び、創造的に立ち向かえるよう、革新的な教育戦略を組み合わせた支援を行なってきた。200以上のニュージーランドの団体でワイタンギ条約に関する教育ワークショップを開催し、このワークショップのモデルをカナダとオーストラリアにも拡大させた。
●ジョアナ・コンセダイン (Joanna Consedine) 著
幼い頃から世の中の公正さや正義とは何かを意識する環境で育った。このような背景から、大学ではこれらの価値観を深めるようなコースを選択。学士号を優等で取得(専攻:教育学)した後、職業訓練プログラムの指導員として、正規の資格を持たない失業者や学校離脱者にさらなる訓練と雇用の機会を提供する仕事に従事した。ニュージーランドに帰国後は、ワイタンギ・アソシエイツで契約社員として働き、現在はキャリア開発に携わっている。
●中村 聡子 (なかむら さとこ) 訳
筑波大学(人文学類 民俗学・民族学コース)卒業。University of Canterbury 修士課程修了(Master of Business Management)。都市銀行国際資本市場部門、財閥系コンサルティングファームで通算14年勤務後、翻訳・教育を中心とした自社経営。2013年にニュージーランドに移住。翻訳業務を続ける傍ら、クライストチャーチ市の留学エージェントで事業開発部長を務めた後、公立小学校(Burnside Primary School)に勤務。同校にて文化的催物のコーディネート、ピアノ伴奏、日本文化の紹介などに携わる。また、市内の留学生のケアや日本の大学への進学指導なども行なっている。
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●解説 上村 英明 (うえむら ひであき)
熊本市生まれ。恵泉女学園大学名誉教授。1982年市民団体「市民外交センター」を設立、現在共同代表を務める。先住民族の権利に早い段階から着目し、日本国内のみならず国際機関を通してその回復運動に広い視野から取り組む。著書に、『新・先住民族の「近代史」:植民地主義と新自由主義の起源を問う』(法律文化社)、『知っていますか? アイヌ民族 一問一答 新版』(解放出版社)、『世界と日本の先住民族』(岩波書店)ほか。
書 評
◆『朝日新聞』(2023.1.21)より
評者:犬塚 元 (法政大学教授・政治思想史)
◆『週刊読書人』(2023.2.10)より
評者:吉井 千周 (富山大学准教授・法社会学・マイノリティ法学)
◆『図書新聞』(2023.5.27)より
評者:内藤 暁子 (武蔵大学社会学部教授)
◆関連書◆
『友だちを助けるための国際人権法入門』 申惠丰 著
『ヤンバルの深き森と海より』 目取真俊 著
『ぼくたち、ここにいるよ―高江の森の小さないのち』 アキノ隊員 写真・文
【小学中学年以上~大人まで】
『映画でみる移民/難民/レイシズム』 中村一成 著
『日本型ヘイトスピーチとは何か――社会を破壊するレイシズムの登場』 梁 英聖(リャン・ヨンソン) 著
『ヘイトスピーチはどこまで規制できるか』
LAZAK(在日コリアン弁護士協会) 編、板垣竜太、木村草太 ほか著
『#鶴橋安寧―アンチ・ヘイト・クロニクル』 李信恵 著
『ロマ 「ジプシー」と呼ばないで』 金子マーティン 著
『記憶の火葬――在日を生きる―いまは、かつての〈戦前〉の地で』 黄 英治(ファン・ヨンチ) 著
『秤にかけてはならない―日朝問題を考える座標軸』 徐 京植(ソ・キョンシク) 著
『羊の怒る時』 江馬 修 著