この本をツイート 
  ★画像クリックで拡大
歳月を刻む第六歌集

李正子(イ・チョンジャ)
歌集 彷徨夢幻


2017年5月刊
四六判並製 208頁
定価 2000円+税
ISBN978-4-87714-473-9



●目次
●書評
●関連書



う女など言うのは誰なのスーパーの半額ばかり伸ばしてる手に
繋がらぬ韓流ブームの淵に沈む一九一〇年のままの 在日
ヘイトスピーチいえヘイトクライム谺する少女の夏を揺るがせて過ぐ

故・近藤芳美氏が絶賛したデビューから三十余年。
在日コリアンとして、女性として、母として、生きる日々の想いを詠む。
愛する者を亡くし、詠えずに過ぎた眠れぬ夜の空白と暗黒を、三十一文字に託す。
歴史を詠い、変わらない日本を問う。
歳月を刻む7年ぶりの第六歌集。



〈著者略歴〉

李 正子(イ・チョンジャ)

1947年、三重県伊賀市(旧上野市)に生まれる。
1965年、三重県立上野高等学校卒業。
中学校時代に短歌と出会い、二十歳頃から作歌を始める。
在日韓国人歌人として初めて作品が日本の中学・高校の教科書に採用されるなど、高い注目を集めてきた。
2005年、韓日友情四十周年記念国際フォーラム(於・京都国際会館)で韓国時調詩人、日本短歌歌人との競演に出演。
短歌結社「未来」所属。短歌会「風」主宰。Tanka college「マダン」通信講座主宰。伊賀市、津市に短歌講座を置く。

[著書]
歌集『鳳仙花のうた』(雁書館、1984年、絶版)
歌集『ナグネタリョン――永遠の恋人』(河出書房新社、1991年)
『ふりむけば日本』(河出書房新社、1994年。雁書館刊の第一歌集『鳳仙花のうた』を織り込んだエッセイ集)
歌集『葉桜』(河出書房新社、1997年)
『鳳仙花のうた』(影書房、2003年。『ふりむけば日本』を底本とした増補版)
歌集『マッパラムの丘』(作品社、2004年)
『在日文学全集 17』(共著・勉誠出版、2006年)
歌集『沙果、林檎そして』(影書房、2010年)
『鳳仙花のうた』新装・普及版(影書房、2012年)

(本書刊行時点)






◆『彷徨夢幻』目次◆

  短歌 1

"序章/白い氾濫/罪と毒/秋黴雨/火をつけて秋/風の絵師/清道旗/アンニュイ

  
エッセイ 1

忍者の里との不思議な縁/チマチョゴリのご真影?/楼車と巡る通信使残照

  
短歌 2

アメリカン瞑想/奪われて/金官伽?/鳳仙花/カーネーション/父の帽子/変わらないんだ

  
エッセイ 2

韻律が刻むレクイエム/追憶は歳月に流されて/旅立った父のメモリー

  
短歌 3

ゆめの通い路/銀河群/大和まほろば/ヤクザだね ワタシって

  
エッセイ 3

どこに? 私の古里よ/梅に憶う父祖の地の春/鳳仙花 種にこもる追憶

  
短歌 4

black chocolate/たわむ着地点/あてなき日々に口ずさんで/終章 夢十夜

 あとがき







書 評






●「朝日新聞」 2017年5月23日より











●「中日新聞」 2017年5月24日より









●「毎日新聞」 2017年5月26日より









●「読売新聞」 2017年5月21日より


  人生苦楽 31文字に込め


 伊賀市在住で読売新聞伊賀版に「現代短歌秀歌館」を執筆している歌人、李正子さん(70)が第6歌集「彷徨夢幻」(影書房)を出版した。在日韓国人で、長男を亡くして……。タイトルには「決して平坦な人生ではなかった」との意味を込め、約500首を選んだ。

 幼い頃はひどいいじめに遭い、涙をこらえた。歌集には生い立ちや家族の思い出などのエッセーも綴っている。在日としての境遇、心境を詠んだ歌もある。

 「繋がらぬ韓流ブームの淵に沈む一九一〇年のままの在日」
 「有色人種の大統領再選になぜなの涙がひとすじ落ちて」

 短歌との出会いは中学校の頃。思いを短歌で表現する喜びを知ったという。子供の頃感じた両親のぬくもりを詠んだ歌もある。

 「昔話をふたつ菫(すみれ)の咲くあしたお下げを編んでくれた指よ オモニよ」
 「トレンチコート長髪巻き毛伊達眼鏡父の写真がひかる小夜更け」
 「うしないしもののひとつに路地に咲く紫苑(しおん)を植えてた父の太い指」

 若い頃の思い出は色あせない。

 「爪紅(つまべに)の少女はわたし暮れなずむ窓に映して踊りはじめる」
 「せいしゅんのすべてが詰まった六畳間以外にキレイキッチンの布巾」
     *
 母になり、我が子へのあふれる思いを詠んだ。

 「母が編むセーター着ていた泣いていた夕暮れウルトラマンが欲しくて」
 「走り書きはキミの受験日起床時間消せないままに二〇年過ぎた」

 息子を亡くし、しのぶ気持ちを歌に込めた。

 「靱帯をうっかり切ってしまった夜キミがいたなら背負ってくれたね」
 「何時も一緒よ残された肩掛けバッグに書き記しては」
 「ひとり呑むビター珈琲にこころ措くここにわたしの音のなき声」

 李さんは「感動して歌を詠むのではなく、日常の中から言葉を紡いでいく。命ある限り続けたい。歌を愛しているから」と話す。

 「あの頃にであっていたら いえ人も時間ももどらないから素敵で」









◆関連書◆

 『歌集 沙果、林檎そして』 李 正子(イ・チョンジャ)

 『鳳仙花のうた』 李 正子(イ・チョンジャ)

 『歌集 一族の墓』 金 夏日(キム・ハイル)

 『尹東柱全詩集 空と風と星と詩』 尹 東柱 著/尹 一柱 編/伊吹郷 訳

 『生命の詩人・尹東柱――『空と風と星と詩』誕生の秘蹟』 多胡吉郎 著

 『#鶴橋安寧―アンチ・ヘイト・クロニクル』 李信恵 著

 『日本型ヘイトスピーチとは何か』 梁英聖 著

 『ヘイトスピーチはどこまで規制できるか』
 LAZAK(在日コリアン弁護士協会) 編、板垣竜太、木村草太 ほか著