書 評 『ユートピアを飲んで眠る』 (秋山順子訳) |
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◆『ふぇみん』 2005年5月25日 現代韓国演劇界を代表する劇作家の日本初邦訳の戯曲選集である。 翻訳家のイシムは仕事中毒で、ひたすらマルクス主義への批判本翻訳に熱中している。仕事の邪魔になるからと、妊娠中の妻に「ユートピア」という睡眠薬を飲ませ、生まれた子どもはその影響で、耳も聞こえず、目も見えない。しかし、その泣き声がうるさいからとユートピアの入った牛乳を……。妻は家出し、呼び寄せた父母にもユートピアをすすめ、仕事を解雇されて訪ねてきた親友にもユートピアを。電話の音も電話の邪魔と切ってしまう。どこにもない場所=ユートピアを求める人々の姿を苦い笑いを込めて描写する表題作ほか、2篇の作品が収録されている。どの作品も展開が早く、長い抽象的なセリフまわしもないので読みやすい。 現代韓国の政治状況も織り交ぜながら、時代を経ても変わらない人間の求める希望と弱さ、そして諦観を温かいまなざしで描いていて感動的だ。 著者は現在50代後半。激動の政治状況を生きてきたであろう韓国硬派の見識を、作品からうかがい知ることができた気がした。(束) |
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