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    「美味しんぼ」問題をめぐって


                                              2014.05.20


 今回の「美味しんぼ」問題では、「鼻血」表現を発端にして出版元の小学館や作者の雁屋哲氏に対する容赦のないバッシングが加えられました。私たちはこういった状況を深く憂慮します。それは、福島原発事故で被災した全ての人々の放射能に対する不安の声を、ますます圧殺していくことにつながるからです。

●「声」を封殺してはならない

 安倍総理は17日に福島県立医大を視察し、「県民の健康状況は他県と違いがないと聞いた。そうした正しい情報を正確に伝えていきたい」、「根拠のない風評を払拭していくためにも、県民や国民に正確な情報を出していくことに力を尽くす」と述べました。

 国のトップが鼻血問題を「風評」と断じることが、国の見解と異なる声を封殺し、放射能被害を心配する声の抑圧につながることを私たちは懸念します。

 被ばくと鼻血との因果関係は、少なくとも現段階では「科学的には立証できない」、つまり「分からない」とするのが妥当な見解だと考えますが、(因果関係が)「分からない」=「放射能とは関係ない」ではもちろんありません。

 総理大臣の上記のような発言は、不安の声を封殺する恫喝と同じであり、放射能の脅威をなかったことにし、放射能被害の真実追求の道を途絶えさせる行為です。決して許されません。

 国や福島県は、「美味しんぼ」騒動を利用して、再び「安心神話」を押し付けているように感じます。


●国と県は責任をもって信頼に足る調査を

 そもそも国や県が、事故後信頼に足る調査や情報公開をしてこなかったことが、根本的な不信につながっています。

 例えば福島県民健康管理調査の問題については、日野行介氏著『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』(岩波新書) に詳しく書かれています。
 
 国や県がやるべきことは、あらゆる情報の公開と調査です。

 チェルノブイリ事故被災地地元の健康調査を参考に、鼻血はもとより甲状腺がん以外の疾病についても、放射線が原因と疑われる全ての疾病について、国の責任で健康調査、疫学調査をすべきです。

 福島県の子どもの甲状腺がんが50人、その疑いが39人にものぼっています。環境省が比較のための甲状腺検査を青森・山梨・長崎の3県で実施しましたが、サンプリングが恣意的で比較にならないとの批判があります。

 より大規模で公正な信用に足る疫学調査を実施することが、いま最低限やるべきことです。それが国や県の責任ある態度です。


●不安の軽減のために

 「不安」を軽減するためには、情報を可視化していくことが必要不可欠です。

 チェルノブイリの汚染地域では、食物からの内部被ばくで健康被害が多く出ているといいます。

 例えばウクライナのように、市民がだれでも自由に、無料で自分の食べ物の線量測定ができるような体制を、小学校区単位程度に早急に整えるべきです。それは当然、福島県以外の汚染地でも要請があれば適用されるべきです。

 農産物の放射能汚染の有無を可視化することは、同時に「風評」被害を軽減することにもつながります。

 また国や県は、把握している全てのデータや情報を、編集を加える前に誰でもいつでも簡単にアクセスできるようにすべきです。

 関連するあらゆる会議も全面公開し、出来る限り市民と行政との対話の場を設けて、市民の不安と不信解消に努めるべきです。


●「避難の権利」の実現を

 さらに今回の「美味しんぼ」問題で加えて憂慮されるのは、被災者の分断がさらに進むのではないかということです。今でも、福島県内に残っている人と、県外へ避難した人との間に深い溝があると言われています。同じ被害者である者たちが分断させられ、いがみ合いをさせられることほど、理不尽なことはありません。

 一人ひとりが納得のいく判断と選択が出来るように、全ての情報が明らかにされるべきです。

 その上で、最低でもロシアのチェルノブイリ法(年1ミリシーベルト以上の被ばく量地域を「移住(避難)権利ゾーン」とし、在留者・避難者それぞれに仕事、住居、薬、食料を支援)の基準を採用して「避難の権利」を認め、どの選択をしたとしても、公平に補償するような法整備を一日でも早くすべきです。

 そのための「子ども・被災者支援法」ではなかったのでしょうか。これを店晒しにしておくことは国の職務怠慢です骨抜きにすることは、国による被災者への裏切り行為です。
(5/21修正)


 繰り返しになりますが、「不安」の声を無視したり封殺してはなりません。それらの声一つひとつが「真実」であると認めるところから出発すべきだと、私たちは考えます。

 最後に、「美味しんぼ」で被ばく影響という扱いにくい問題を勇気をもって世に問われた雁屋哲氏と、掲載を決断されたビッグコミックスピリッツ編集長に、敬意を表したいと思います。

                                            影書房編集部